知財戦争

知財戦争

「知財戦争」を読み終えた。
知的財産法の科目を履修していますが、こちらの科目で教科書として使用するよう指導されている「知的財産法入門」は、残念ながら私にはレベルが高すぎて、つらくて進まない。

そこで読んでみたのが、この「知財戦争」だが、著者が日経新聞編集委員ということで、時事問題がふんだんに取り上げられとても楽しんで読むことができた。
発光青色ダイオード裁判、遺伝子スパイ事件、ウィニー事件などまだ記憶に新しいところが多々取り上げられている。
漫画喫茶の著作権保護が問題になるなら、床屋やラーメン屋に置いてあるマンガはどうなのだろうか?
ウィニー事件についても、ファイル交換ソフトウェアを違法に使う人に罪があるのであって、なぜ製作者が違法とされるのか
とか自分なりに考えてみるのも楽しい。

この本によると知的財産権の起源は古代エジプトギリシャなのだそうだ。
公取経団連の争いの話等は、法律の視点からではなかなか表れてこない。興味深い部分だ。

違法コピーといえばこういっては問題だが「中国」の問題は外せない。
松下電器産業は、あちらでは非常に人気の高いブランドだそうなのだが、模倣品業者が「香港松下電器」という実体のないペーパーカンパニーを作った話には笑ってしまった。(松下電器産業は香港松下電器という名前の会社は持っていない)

この本によれば日本の対中国政策は、以下のような形で段階分けができるそうだ。

第一段階:「我が社もニセモノが出るようになった」と喜ぶ
第二段階:慌てて対策に力を入れ始める
第三段階:徹底的に対策を講じ、相手が恐がってニセモノを作らなくなる

実際に上記の第二段階以降に進むための具体策としては、以下のような基本姿勢や先約が必要だということ。

1.商標などの権利をきちんと登録する
2.契約などで、対米事業に払うのと同じ注意を対中事業でも払う
3.権利を侵害されたら徹底的に戦い、それにより売上を伸ばすと考える
4.自社に対応できるスタッフがいないとの理由で諦めず、調査会社など社外の人材を積極活用する。
5.「知財の侵害に厳しく対応する会社」との評価を確立する。

知財に関しては、各国で様様な対応が取られているのだが、やはりこの分野でも世界をリードし、また力を入れている米国の政策は外すことはできない。この本では、米国の知財政策の三本柱を「より高く」「より早く」「より強行に」と表現している。

これらを具体的に説明すると以下のようなことだそうだ
1.権利侵害に対しては高額の損害賠償を課す
2.新しい技術は世界に先駆けて知的財産権として認める
3.自国のルールを強硬な通商交渉を通じて他国に導入させる。

ビジネスモデル特許等を思い出すと、あーなるほどという感じだ。

振り返って日本の制度を見てみるとこれまた問題は山積みのようで、先日の裁判のあった青色発光ダイオードを始めとする発明者が受け取るべき「相当の対価」についての定義がなされいないため、金額の算出ができない。技術のわかる裁判官がいない(この話も面白い)。

なんといっても問題なのは、特許訴訟がオセロゲームになってしまうことだろう。
例えばAという会社がBという会社を特許侵害で訴える。Aという会社が勝訴する。しかし、Aの会社の特許そのものが実は無効だという訴えが起こり、ここでまたAが負けてしまうとBから受け取った損害賠償額に利子をつけて返却する必要が出てくるのだ。
なぜこのようなことが起こるかというと、特許紛争には2つの裁判ルートあるのだそうだ。

1.他の民事裁判と同じく、特許侵害を裁判所に訴えるルート
この訴訟は地裁→高裁→最高裁と進む

2.上述の例のように、特許侵害訴訟で訴えられたBは、Aの特許権が実は無効だと訴えて反論することが多く、この場合は以下のようなルートとなり、(1)のルートとは別になるそうだ
特許庁の審査部門→東京高裁→最高裁

こんなの全然知らなかった・・・・知れば面白い、知的財産という感じである。
次はこの本に取り上げられていた「特許ビジネスはどこへ行くのか―IT社会の落とし穴」を読んでみようと思っている。

追伸:「著作権の考え方」もすごく面白かったです。インターネットの発達で、一億総クリエータ化する現代では著作権なんて知らないとはもう言ってられないようだ。
それにしても、新書って値段のわりにすごい本がたくさんあって、本当に有り難い!